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【52ヘルツのクジラたち】2021本屋大賞ノミネート作。様々な色が浮かんできた一冊。


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 絶望の中の希望

 

メインのテーマは幼児虐待

黒い要素が主たるテーマなのに、

読んでいるときの心は漆黒ではない。

 

この物語を読み進める間、私の心にはさまざまな色が浮かんできた。

 

ストーリーを通して、夜の海の空のような濃紺色のイメージが流れてくる。

紺色のなかにポツポツと星の光があるような情景を思い浮かべていた。

 

舞台は、九州の海辺の田舎町。

昼間の照りつけるような日差しは輝く黄色、

夜の静かな夜は、藍色。

 

主人公は貴瑚。

辛い虐待と、難病を患う義父の介護に追われ、

絶望の縁から逃げた後に、

不倫に落ちていった過去を持つ。

貴瑚への虐待がリアルに綴られており、読者としては辛いものがあった。

しかし、そこに著者は貴瑚の純粋な心情を添えてくれている。

「ただ、母親に愛されたい」

その純粋な心の描写がなければ、

読者としては辛辣な気持ちになってしまうかもしれない。

 

貴瑚は辛く重苦しい過去を振り切りたくて、九州の海辺の街に移り住む。

ここへ来るまでに何があったのか?

なぜ、貴瑚この街を選んだのか?

 

もう何もいらない、

誰とも関わりたく無い、

心が虚無になってしまった貴瑚。

突然、運命が動き出す。

 

貴瑚は、ある少年と出会う。

少年もまた、家族から虐待を受けていた。

言葉を発することのない少年。

 

貴瑚は彼を保護し、52と名づける。

 

 

52、名前の由来

この52とは、クジラの鳴き声の周波数のこと。

52ヘルツ。

しかし、この52Hzの声は他のクジラには聴こえないのだ。

家族に見捨てられ、社会の片隅で声を上げるが誰にも聞いてもらえない、貴瑚や少年の言葉を象徴している。

 

心の色の変化

 

著書では、信じていた人が別人のようになってしまうエピソードが描かれている。

貴瑚と主税(ちから)の関係だ。

ふたりは、会社の上司部下として出会い、恋が始まる。

しかし、主税には許嫁がいたのだ。

社会的地位を守るため、主税は結婚しようとする。

それにも関わらず、貴瑚を愛人として囲う。

 

※少しだけ私の個人的な感想を。

ふざけるな、主税よ。

貴瑚を馬鹿にしないで!

流石に頭に血が上るほど怒りましたよ、本当に。

貴瑚も貴瑚でさ、もっと早く逃げれば良かったのに...。

まるで昔の自分を見ているようで、悔しくて、悔しくて。

※以上。

 

 

出会った頃の主税は溌剌としていて、

頼りがいがあり、

一緒にいれば心から安心できていた貴瑚。

 

ささいなきっかけで、主税は日に日に、

貴瑚へ暴力的な一面を露わにし、

猜疑心にまみれていく。

 

眩しく燃え盛る真っ赤な情熱とともに、

はじまった恋。

時の経過とともに、歪みが生まれ、

徐々に冷淡な青が混じりはじめる。

嫉妬が徐々に増幅し、

紫色の嫉妬に支配されていく。

 

このシーンでは、

私の心の中に様々な色が浮かんできた。

人をこうさせてしまったのは私自身だと、

自分を攻め続けていた貴瑚。

そしてその人を引き寄せたのも自分だと、

受け入れなければならない。

 

あまりにも、重くのしかかる嫉妬。

粘り気を孕んだ黒い重圧に耐える日々に変わる。

ついに、耐えかねて逃げ出す。

 

その後は、床も天井も壁も白くぬられた

無機質な箱にいるような気持ちなのだろう。

 

私にも似たような経験がある。

だから、私は貴瑚に感情移入した。

 

このまま一緒にいたらダメだと気付いていながらも、

その男から離れられない気持ち。

好きなのか、情なのか。ちがう、恐怖。

脅迫観念なのだ。

 

ぐるぐると心に色が浮かんできた。

あまりに、心を動かされて涙しそうになった。

 

最後に

著者が描く幼児虐待のテーマは、

決して私たち読者の気持ちを明るくはしてくれない。

黒い絶望の世界のなかで、ほんの少しの光を見つけ出す、

【静かな強さ】表現しているように感じた。

 

カチカチになった私の心を、思い切り揺さぶってくれた作品でした。