2021年も暮れようとしていた12月初旬。
10年前に別れた恋人から突然LINEメッセージが届いたのでした。
【元気にしてるかー?】と。さぁ、35歳独身女どうする?
別れていた10年間
10年前に恋人関係は終わったものの、それからも3年に1回はLINEで連絡をとっていた私たち。既読スルーをする理由もなかったし、やり直すつもりもなかったから。
彼は九州に赴任しており、私は関東在住。お互いが元気で過ごしていることは知っていた。
私は仕事に邁進、新しい恋人もいたし、心から楽しめる趣味も見つけていた。いわゆる独身貴族として10年間充実した生活を送っていた。
寝たいときに寝て、遊びたいときに遊んで、年に3~4回海外旅行へ行き、韓国ドラマにハマりまくり、宝塚大劇場へ足しげく通い、一生懸命仕事をする。老後生活のための資産運用も始めた。典型的な独身生活である。そしてこの生活基盤は盤石なものとなり、老後への不安や独身人生への寂しさなんてものはとうに解消済みなのだ。
【私はひとりで生きていく】
誰に聞かれたわけでもないのに、毎日毎日そう繰り返し主張してきた。それが良いと思っていた。これで間違っていない、これが私の人生なのだと心からそう思っていた。
元カレに再会するまでのパニック状態
ところが、12月初旬に連絡をしてきた彼はなんと、私の自宅から電車で30分の町に住んでいるという。九州から引っ越してきて2年が経っていた。私は知らなかった。まさかこんなに近くにいるなんて。
そして届いた突然のLINE。【香水 by瑛太】じゃないんだからさ…と心では呟いていたものの、おかしなことが起こる予感していた。まさにその展開だったのだ。
届いたLINEには
「元気してる?」「飲みに行こうよ」と書かれているのだ。
私の頭はパニック状態。これは…何かの冗談でしょうか??
新手の詐欺でしょうか?なんの意図があってそんなことを仰っているのでしょうか?
こんなパニック状態に陥ること自体、私が彼を少なからず想っている証拠だった。情けない。10年もの間、【ひとりで大丈夫】と豪語していたにもかかわらず、実際心は揺れているのだ。
揺れた心は素直だった
「飲みに行こう、お酒はあまり飲めないけれど」と返事をした。お酒は飲めないと主張し、牽制を測った。酔いに任せてノリであれこれしてしまわないように。それだけは、大人になったと自分を褒めてあげたい…せめて。
約束をしたものの、頭の中はぐっちゃぐちゃのまま。
‐本当に会いに行っていいのか?元彼女だからって軽く見られていないだろうか?
-ドルガバの香水を付けて、煙草を吸えば元サヤに戻るなんてことはないんじゃないか?
-覆水盆に返らず、という言葉もあるくらいだ。元サヤになんて戻れない。
‐再会したらすっごく外見が劣化していて性格が悪くなってて、がっかりするんじゃないか?(逆も然り)
‐松任谷由実も「白い服、白い靴」で歌っている。元カレと会う約束をした日は土砂降りの雨が降ってしまってキャンセルした、と。
浮つく気持ちを抑えて、仕事をこなすので精一杯な毎日を送る羽目になったのだ。
再会の瞬間
再会の日が訪れた。
ドルガバの香水はつけていない。
白い服も着ていない、白い靴も履いていない。
天気は快晴だった。
集合場所は関東屈指のデートスポット。これもまた私を混乱させた。この場所には他の男性とも一緒に来ている。いい思い出も悪い思い出もある。今日はどんな日になるだろう、と期待が3割・不安3割・警戒心4割。
困ったものだ。ワクワクする気持ちもあるのだ。やっぱり心のどこかで楽しみにしている自分もいたのだ。
集合時間に到着すると、彼の姿はない。キョロキョロしていると、肩を叩かれた。
そこに彼がいたのだ。
見た目は変わっていなかった。むしろ素敵になっていた。完全に大人の男性になっていたのだ。恋愛をしていた頃の彼は23歳。今は33歳。
前髪は後退していない。太ってもいない。紺色のコートを羽織り、穏やかな笑顔を携えていた。
そう、私はまた恋に落ちたのだ。
再会した元恋人たち
10年ぶりにふたり並んで街を歩く。どう考えたって、距離が近い。肩が触れている。これは友達の距離感ではない。でもそれが心地よかった。当たり前のように彼は私のすぐ近くを歩く。10年前と同じだった。それ以上に、安心感を覚えた。
この10年間、恋人と呼んだ人たちと一緒に歩いていても、ひとりで歩くのと感覚は変わらなかった。目的地までただ一緒に歩くだけだった。誰かが横にいても、心はいつも独りだった。でも、それでよかった。そうしなければ恋に溺れ自分を見失ってしまうと思っていたから。
10年ぶりに再会した私たち元恋人は10年分の思い出話に花を咲かせた。仕事で成功したこと、旅行に行った話、私がダイビングを趣味にしていること、彼は釣りにハマっていること…話しは尽きなかった(10年分だから当然なのだが)。
1軒目での食事を終え、外に出ると彼は私の手を握った。手を繋いで歩くことになった。35歳、不覚にも…私は恋に落ちた。
帰り際、元カレは言った
午後3時に待ち合わせをして、気づけば終電間際の時間になっていた。あれこれ話していたらあっという間に時間は過ぎていた。
さすがに翌日私は出勤なので、もう帰ろうと言った。
彼は、うつむきながら「もう一度、付き合おう」と言った。
何を言っているのだ。確かに今の時間は楽しかった。手を繋いで歩いたことも嬉しかったし、幸せな気持ちになったのも事実だ。
でもそれが恋の始まりになるとは限らない。こちらも35歳だ。そう簡単に恋をするわけにはいかない。仕事もある、今の生活は精神的に安定しているし、何の不満もないのだ。せっかく手に入れたこの平穏な生活を、元カレに振り回されてたまるものか!
…と思う一方、
いいえと言わない自分がいた。
これ以上踏み込んではいけないと思う自分と、やっぱり憧れの人と一緒に居たいと思う自分が鬩ぎあった結果…
「分かりました。至らない点も多いかとは思いますがどうぞよろしく」なんて、ご丁寧に返事をしている私がいたのだ。
嗚呼、情けない…でも嬉しい、でも好きになりすぎてしまうのが怖い。グルグルと渦を巻くような心の内だった。
そして始まったシーズン2
こうして私に新たな恋が舞い降りてきた。2度目とは言え、20代の10年間を経ていること、前回の恋愛期間は10カ月という短期間だったこともあり、実際はほぼゼロからのスタートと言う感覚である。
彼が好きなこと、彼が大事に思っていること、生活スタイルも何も知らない。
また最初から彼を知り始めればよい…と言い聞かせている。覆水盆に返らずの精神はまだまだ私の心に燻ったままだが。
不安と期待の入り混じった新しい恋。ハネムーン期はなさそうだが、穏やかに落ち着いてお互いを尊重しあっていけたら、と心から思う。
しばらくは、自分の心の様子を観察してみることに決めた。彼と一緒にいると安心するのか、不安が大きいのか、彼に何をしてあげられるだろうか、そんなことを観察してみようと思う。
36歳はどうなるか?
昨年12月から今日まで、慌てっぱなしの私。この慌てっぷりがなんとも情けない。10年での成長なんてたかが知れている。この様子からすると、ほぼ成長していないと言ってよいだろう…笑。
【私は独りで大丈夫】それも事実。
恋をすれば嬉しかったり悲しかったり感情が動くのも知っている、10年ぶりに訪れた突然の心の動きにぜーぜーしながらなんとかやっていこうと思う。心の筋肉の衰えさえ感じる。こんな私も今月36歳になるのだから、ここはひとつ感情の筋トレをはじめようじゃないか。