【滅びの前のシャングリラ】の感想。人類最後の1か月間が鮮明に描かれている作品。
スポンサーリンク
率直な感想
心が重くなる。それが率直な感想です。
あらすじ
「一か月後、小惑星が地球に衝突する」
突然宣言された「人類滅亡」。
学校でいじめを受けている友樹(ゆうき)、人を殺したヤクザの信士(じんじ)、恋人方逃げ出した静か(しずか)そしてー
荒廃していく世界の中で、「人生をうまく生きられなかった」四人は、最後の時をどう過ごすのか?
中央公論新社HPより
4人の登場人物の心情や生活の変化が鮮明に描かれています。
4人ともがそれぞれに暗い過去を持ったまま、
人類最後の1か月間を過ごすというお話。
- いじめられている少年、
- 養子として育てられた少女、
- 夫の暴力から逃げてきたシングルマザー、
- そして、人格を変えられてしまった有名歌手
物語の冒頭は、それぞれの節が別のストーリーかと感じていましたが…
実はこの4人のお話にはすべて繋がりがあった、という展開。
この人は、この子のお母さん?
この男性はこの人の元夫?
と、想いながら一気にストーリーに引き込まれていきました。
個人的にはこのような「点と点が線になる」というストーリー展開が好きです。
人類全員が死んでしまう状況など到底想像できないのですが、その日に向かって毎日を過ごすストーリーを読み進めていくと、「もし自分だったら…」と考えてしまいました。
結局「ちょっと重い気持ち」になりますけど。
新しい発見
重い気持ちの中にも、自分にとって新たな発見もありました。
人生最後の日は誰と一緒に、どこで、どんなふうに過ごしたいか、なんてことを真剣に考える機会ってなかなかないでしょう。
この本を読みながら真剣に考えてしまいました。
良い機会を与えて頂きました。
私だったら、
いつもと同じように仕事へ出かけて、
いつもと同じ食事をして、
家族と一緒にいつもの会話をしていたいな、と思ったわけです。
ということは、今の生活に何ら不満を抱えていないということになります。これは新たな発見です。
このストーリーは真剣に人生を生きる登場人物たちの姿が色濃く描かれているので、読み手の感情を動かす力があります。
ですから、もし毎日の生活にマンネリを感じていたら一読の価値はあると思います。
毎日の生活が当たり前でないことに気づけるはずです。
大賞ではないけれど
2021年4月14日に本屋大賞が発表されました。
残念ながら、本作は大賞受賞作ではありませんでしたが、ノミネート作の中では最も心揺さぶられる作品だったと思います。
中でも、人気女性歌手のお話はとくに印象に残ります。
人気のトップ歌手になるために地元の友人とは離別し、地元の言葉も捨て、完全に人格を変えられてしまった女性が、最後の1か月間で本来の自分らしさをとり戻していく姿が描かれています。
自分を押し殺して生きる必要はないのだ、と真剣に考えさせられます。
最後に
読み終えてから「シャングリラ」の意味を調べました。
シャングリラとは…
理想郷。イギリスの小説家ジェームス=ヒルトンの「失われた地平線」中,仏教徒のユートピアであるシャンバラをモデルにして描かれたユートピア。
理想郷…。
私にとっての理想郷とは何だろう?お金?恋人?家族?
時にはちょっとそんなことを考えてみてもいいかもね。